東京高等裁判所 昭和53年(行ケ)160号 判決 1980年8月27日
原告
井関農機株式会社
被告
特許庁長官
上記当事者間の審決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が昭和50年審判第9018号事件について昭和53年8月14日にした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文と同旨の判決を求めた。
第2請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「刈取脱穀機における穀稈の供給位置調節装置」とする考案につき、昭和40年8月26日実用新案登録出願をし(実願昭40-70346号)、昭和44年2月7日上記実用新案登録出願を特許法第46条第1項の規定により特許出願に変更し(特願昭44-9605号)、昭和45年10月29日上記特許出願を特許法第44条第1項の規定により分割し、その1部を新たな特許出願(出願の後、昭和50年10月23日付及び昭和52年7月18日付各手続補正書により補正した。以下、この発明を「本願発明」という。)としたところ、昭和50年10月1日拒絶査定の送達を受けたので、昭和50年10月23日これに対し審判を請求し、特許庁昭和50年審判第9018号事件として審理され、昭和53年8月14日上記審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年8月28日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
脱穀装置の扱室の前面において穀稈の供給口より排出側にわたつて設けられていて、挾持した穀稈の穂先部を扱室内に挿入して移送する穀稈送込装置と、穀稈の株元部を切断する刈取装置と、刈取装置に通ずる穀稈搬送通路の低部から該穀稈送込装置の始端部にわたつて、刈取穀稈の株元部を挾持して移送するようにした刈取穀稈の移送工程中に設けられた穀稈移送装置とからなり、少なくとも脱穀装置の穀稈送込装置が、前記穀稈移送装置の終端部が挾持する穀稈株元方向あるいはこれに近似の方向において、穀稈移送装置の終端部の1側方より他側方に、また他側方より1側方へ穀稈移送装置の終端部を横切つて調節可能に構成するか、または、穀稈移送装置の終端部が、穀稈送込装置が挾持する穀稈株元方向あるいはこれに近似の方向において、穀稈送込装置の1側方より他側方に、また他側方より1側方へ穀稈送込装置の始端部を横切つて、前記穀稈供給口に対して遠近変位調節可能に構成せしめて刈取装置が切断した刈取穀稈の株元部を、該穀稈移送装置の始端部が挾持して移送せしめ、更に穀稈送込装置の始端部に前記穀稈移送装置の挾持位置より穂先側または株元側を受け継がせるようにして、脱穀装置の扱室内への穂先部挿入深さを可変ならしめるごとく構成したことを特徴とする刈取脱穀機。
(別紙図面参照)
3 本件審決の理由の要点
本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
本願発明には、上記本願発明の要旨よりみて、次のものが含まれている。
「脱穀装置の扱室の前面において穀稈の供給口より排出側にわたつて設けられていて、挾持した穀稈の穂先部を扱室内に挿入して移送する穀稈送込装置と、穀稈の株元部を切断する刈取装置と、刈取装置に通ずる穀稈搬送通路の低部から該穀稈送込装置の始端部にわたつて、刈取穀稈の株元部を挾持して移送するようにした刈取穀稈の移送工程中に設けられた穀稈移送装置とからなり、穀稈移送装置の終端部が、穀稈送込装置が挾持する穀稈株元方向あるいはこれに近似の方向において、穀稈送込装置の1側方より他側方に、また他側方より1側方へ穀稈送込装置の始端部を横切つて、前記穀稈供給口に対して遠近変位調節可能に、穀稈移送装置をその始端部を中心として穀稈送込装置に対する角度を変えて揺動できるように構成せしめて、刈取装置が切断した刈取穀稈の株元部を、該穀稈移送装置の始端部が挾持して移送せしめ、更に穀稈送込装置の始端部に前記穀稈移送装置の挾持位置より穂先側または株元側を受け継がせるようにして、脱穀装置の扱室内への穂先部挿入深さを可変ならしめるごとく構成したことを特徴とする刈取脱穀機。」(以下、これを「要旨A」という。)
請求人(原告)は、本願発明の出願日について、本願発明は、昭和40年8月26日に出願された実用新案登録出願を昭和44年2月7日に特許法第46条第1項の規定により特許出願に変更した特願昭44-9605号(以下、「原出願」という。)を、昭和45年10月29日に同法第44条第1項の規定により分割して新たな特許出願としたものであるから、本願発明の出願日は昭和40年8月26日に遡及すると主張する。
そこで、原出願の明細書及び図面を精査すると、原出願の明細書及び図面には、「刈取移送装置と脱穀機(換言すれば、脱穀機に設けられている移送チエン)とのいずれかを相対的に直線的に前後方向に移動調節可能に構成したことにより、穀稈の扱き深さを調節する刈取脱穀機における穀稈の供給位置調節装置」は記載されているが、「穀稈移送装置を、その移送始端部を中心として穀稈送込装置に対する角度を変えて揺動できるようにすることによつて穀稈の扱き深さを調節すること」は、記載されていないし、示唆されてもいない。
したがつて、本願発明は、原出願の明細書及び図面に記載されていなかつた事項をもその要旨とする構成中に含むものであるから、原出願の明細書の要旨を変更するものである。そうであれば、本願発明については、特許法第44条第2項の規定による出願日の遡及が認められないので、その出願日は昭和45年10月29日である。
本願発明の上記出願日前に日本国内において頒布された刊行物である昭45-30172号特許公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。「脱穀装置の扱室の前面において穀稈の供給口より排出側にわたつて設けられていて、挾持した穀稈の穂先部を扱室内に挿入して移送する穀稈送込装置と、穀稈の根元部を切断する切断装置と、切断装置に通ずる穀稈搬送通路の低部から該穀稈送込装置の始端部にわたつて、刈取穀稈の根元部を挾持して移送するようにした刈取穀稈の移送工程中に設けられた穀稈移送装置とからなり、穀稈移送装置の終端部が、穀稈送込装置が挾持する穀稈根元方向あるいはこれに近似の方向において、穀稈送込装置の1側方より他側方に、また他側方より1側方に穀稈送込装置の始端部を横切つて、前記穀稈供給口に対して遠近変位調節可能に、穀稈移送装置をその始端部を中心として穀稈送込装置に対する角度を変えて揺動できるように構成せしめて、切断装置が切断した刈取穀稈の根元部を、該穀稈移送装置の始端部に挾持して移送せしめ、更に穀稈送込装置の始端部に前記穀稈移送装置の挾持位置より穂先側または根元側を受け継がせるようにして、脱穀装置の扱室内への穂先部挿入深さを可変ならしめるように構成したことを特徴とするコンバイン。」
しかして、本願発明の要旨Aと引用例とを対比するとと、両者が同一であることは明らかである。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例と同一のもを含むものなので、特許法第29条第1項第三号に該当し、特許を受けることができない。
4 本件審決の取消事由
本願発明に要旨Aが含まれること、引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは、争わないが、本件審決には、次のとおり、これを取消すべき事由がある。
1 審決が要旨Aに基いて、本願発明についての特許出願を、原出願の要旨を変更するものである、としたのは誤りである。
要旨Aの構成は、審決において突然に摘示された構成であつて、本願発明の明細書及び図面には全く記載されていない構成である。すなわち、審判官が、本願発明の目的を達成させるためには、本願発明の明細書及び図面に示された実施例とは異なるが、実施の1例として可能であるとして、考え出したのが要旨Aである。要旨Aは、本願発明の実施例であつて、発明の要旨ではない。そして、上記のように考え出された要旨Aの構成と本願発明の特許請求の範囲とを対比してみると、特許請求の範囲は、要旨Aをも含む記載となつているから要旨変更であるというのであるが、これは、要旨Aに当るものが本願発明の技術的範囲に属するか否かの問題であつて、要旨変更とは異質の問題である。
要旨変更とは、例えば、要旨Aの構成を、本願発明の明細書及び図面中に、後から書き加えるような補正をする場合をいうのであつて、特許請求の範囲の記載を抽象的に書き改めることではない。要旨Aは、「穀稈移送装置をその始端部を中心として穀稈送込装置に対する角度を変える」というような、原出願の明細書及び図面には記載されていない具体的構成を持つているから、この技術を補正書で後から追加することは許されない。しかし、特許請求の範囲については、特許法第41条に規定されているとおり、「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」のであつて、本件では原明細書に記載されている範囲内か否かが問題となるのである。
2 「刈取移送装置と脱穀機の取付位置を相対的に調節する」という技術的思想(以下、「技術思想(X)」という。)は、「刈取移送装置と脱穀機の取付位置を、相対的にかつ直線的に調節する」という技術的思想(以下、「技術思想(Y)」という。)とともに、原出願の当初の明細書及び図面に記載されている。本願発明についての特許出願は、技術思想(X)について分割出願したものであるから、原出願の要旨を変更するものではない。
原出願の当初の明細書には、次の記載がある。
(1) 「この発明は、以上のような欠陥を解消するため、脱穀機の移送チエンに対する穀稈挾扼位置を調節することによつて、脱穀装置(扱室内)への穀稈供給を常に最適位置にならしめ、かつ、移送チエンへの受継ぎを正確に行わせることを目的とする。」
(2) 「扱室内への穀稈供給量(挿入量)は、移送チエンへの穀稈挾持位置によつて決まる。すなわち、移送チエンが移送無端体によつて送り上げられてくる穀稈のどの部分を受け継いで挾持するかによつて決まるものであるから、穀稈の挿入量を調整するには移送チエンの始端部と移送無端体終端部との相対距離を前後に変更する。」
(3) 「この発明は、以上のように構成したものであるから、脱穀機の移送チエンと刈取移送装置との前後の相対距離を任意に変更できることによつて、移送チエンへの穀稈の受継挾持位置を穀稈の長短に応じて変更することができ、もつて、扱室内への穀稈穂先部の供給量(挿入量)を穀稈の長さにかかわらず常に最適ならしめて、良好な脱穀作業を能率よく行なうことができる。」
すなわち、原出願の当初の明細書の上記適出部分には、技術思想(X)について記載されている。
また、原出願の元になる実用新案登録出願(実願昭40-70346号)の実用新案登録請求の範囲の記載には、
「車体の上側に脱穀機を扱胴軸が機体の進行方向に対してほぼ直角方向に、かつ、供給移送チエンが後側に位置するように装置し、その脱穀機の横側位置には、この下方向に位置して設ける刈取部と脱穀部の供給口部及び供給移送チエンから前方下部に向けて張設する移送無端体とからなる刈取移送装置を設けると共に、この刈取移送装置と前記脱穀機とのうち、どちらかを車体に対して前後方向に移動すべく調節可能に構成した自脱型コンバイン」
とあり、技術思想(X)について記載されていた。
上記のように、本願特許出願は、原出願の当初の明細書並びに原出願の元になる実用新案登録出願の実用新案登録請求の範囲に記載されていた技術思想(X)についてされた出願であるのに、審決は、要旨Aを含むから要旨変更である旨判断したが、特許請求の範囲を総括的な広い権利となるように記載したからといつて、それが直ちに、別の技術的思想を加えるということにはならない。
技術思想(X)は技術思想(Y)の上位概念に当る。技術思想(Y)は、技術思想(X)と、その技術思想(X)における「相対的な調節」を「直線的な相対調節」とした下位概念の技術思想(Y)に分けうるものである。したがつて、原出願の明細書を作成するに当り、その特許請求の範囲として、技術思想(X)を特許請求の範囲の第1項に記載し、その第2項には「前記第1項のものにおける相対的な調節は直線的な相対調節とする」とした下位概念の技術思想(Y)を記載して、特許法第38条但書の出願とすることは、できたものである。この点からも、技術思想(X)は、原出願の明細書に記載があると解すべきである。
第3被告の陳述
1 請求の原因1ないし3の事実は、いずれも認める。
2 同4の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。
1 取消事由1について
審決は、本願発明の特許請求の範囲の記載によれは、本願発明には要旨Aが含まれることになり、そして、この要旨Aは、原出願の当初の明細書及び図面になん記載されておらず、また、これらの記載からみて自明な事項であるとも認められないから、要旨変更であるとしているのである。審決に誤りはない。
2 取消事由2について
原出願の当初の明細書及び図面には、扱き深さを調節するという発明の課題を解決するための技術手段としては、原告主張の技術思想(Y)を具体化したものしか記載されていない。
原告は、原出願の元になる実用新案登録願に技術思想(X)が記載されていると主張するが、この主張は意味がない。たとえ上記実用新案登録願の明細書又は図面に記載されていた事項であつても、原出願の当初の明細書又は図面に記載されていないものは、本願特許出願において出願の遡及を享受しえないものである。
第4証拠関係
原告は、甲第1号証、第2号証の1ないし7、第3号証ないし第6号証を提出し、被告は、甲号各証の成立を認めた。
理由
1 請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 本件における争点は、本願特許出願について、法第44条第2項の規定による出願時の遡及が認められるか否かである。
(取消事由1について)
原告は、要旨Aが本願発明の実施例に該当することを自認する。したがつて、要旨Aは、本願発明の必須の構成要件をすべて包含しており、かつ、両者を対比してみると、本願発明の特許請求の範囲の記載は、そのうち、穀稈移送装置と穀稈送込装置の位置調節に関する「前記穀稈供給口に対して遠近変化調節可能に構成せしめて」の部分において上位概念をもつて記載された発明であるのに対し、要旨Aにおいては、これに対応する部分は、「前記穀稈供給口に対して遠近変位調節可能に、穀稈移送装置をその始端部を中心として穀稈送込装置に対する角度を変えて揺動できるように構成せしめて」と下位概念をもつて記載されたものであることが明らかでる。
そうすると、要旨Aが本願発明に含まれていることについて争いがなく、一方で、後述のとおり、本願発明の当初の明細書(成立について争いのない甲第2号証の5)には、刈取移送装置と脱穀機とのうちいずれかを相対的に直線的に前後方向に移動調節可能にした構成のみが記載されていて、そこには、要旨Aの上記構成は記載されておらず、示唆もされていないし、また、これを自明な事項であるということもできない(成立に争いのない甲第4号証ないし第6号証をもつてしてもこれを肯認できない。)から、要旨Aの上記構成を加えて、本願発明の特許請求の範囲(甲第2号証の3)とすることは、要旨を変更するものとして、許されないというべきである。この点についての原告の主張は、いずれにしても採用することはできず、審決の判断に誤りはない。
(取消事由2について)
原出願の当初の明細書(前掲甲第2号証の5)においては、解決すべき課題として、「刈取移送装置と自動送込脱穀機を結合した刈取脱穀機においては、両者の関係位置が不変で一体的に構成されたものであると、穀稈には成育状態・品種あるいは地方によつて極端に短い穀稈と長い穀稈とがあるために、その穀稈の短い場合には、脱穀装置に穀稈が十分に供給できない場合があつて扱ぎ残しの発生原因ともなり、また、反対に長過ぎる場合には、脱穀装置への穀稈供給が遅れたり過大な動力を要したりして、円滑で能率のよい脱穀作業ができなかつたものである。そこで、この発明は、以上のような欠陥を解消するため」のものであると記載され、上記課題の解決手段として、「この刈取移送装置と前記脱穀機とのうちのいずれかを、相対的に直線的に前後方向に移動調節可能に構成した」(同明細書第2頁9行目ないし11行目及び第6頁16行目ないし18行目)、「移送無端体からなる刈取移送装置と、これに対する脱穀機とのいずれかを前後方向に直線的に移動させることによつて脱穀機の移送チエンへの穀稈挾持位置を調節するものであるが、図例は刈取移送装置を定位置において、脱穀機をこれに対して前後方向に直線的に移動調節できるように構成している。」(同第3頁6行目ないし12行目)との構成が記載され、上記構成を有する結果として、「穀稈が長い場合には、脱穀機を刈取移送装置に対して前方に直線的に移動させ、移送チエンの移送無端体に対する前後の相対距離を長くし、また、穀稈が短い場合には、脱穀機を前記とは反対に後方に直線的に移動させ」(同第5頁2行目ないし6行目)、「脱穀機は刈取装置に対して直線的に移動させるものであるから、移送チエンの移送無端体に対する相対角度を変化させない状態で移動させることができるので移送チエンへの穀稈受継作用を正確に維持しながら整然と行なわせることができる。」(同第5頁11行目ないし16行目)、「脱穀機と刈取移送装置とのうちいずれかを相対的に直線的に移動させる構成であるから、移送チエンと移送無端体との前後の相対距離は変化するが、両者の相対角度は変化しないことによつて、移送チエンへの穀稈受継挾持位置の変更調整が容易にかつ正確にできる。」(同第6頁3行目ないし9行目)と記載されていることが認められる。
これらの記載によれば、原出願の当初の明細書に記載されたものは、前述の課題解決のために、脱穀機と刈取移送装置とのうちいずれかを相対的に直線的に移動させるようにしたものであり、しかも、そのように構成することによつて、脱穀機の移送チエンと移送無端体との相対角度を変化させることなく両者の相対距離を変化させうるようにしたものと解される。原出願の当初の明細書を子細に検討しても、脱穀機と刈取移送装置とのいずれかを相対的に直線的に前後方向に移動調節可能にした構成のみが記載されており、これ以外の構成については記載がなく、その示唆もない。
原告は、原出願の当初の明細書及び図面には、「刈取移送装置と脱穀機の取付位置を相対的に調節する」という技術思想(X)が記載されていると主張するが、前述したところに照らし、採用することはできない。原告が原出願の当初の明細書から摘出した(1)ないし(3)の各記載部分は、いずれも原出願にかかる発明、すなわち、直線的な前後方向の移動調節を前提としたものであつて、前記判断を左右しうるものではない。
また、原告が主張する原出願の元になる実用新案登録出願の実用新案登録請求の範囲の記載は、出願の変更によりこの実用新案登録出願の時にしたものとみなされる原出願そのものに関するものではなく、また、上記実用新案登録出願は取下げたものとみなされるにいたつているから、これをもつて原出願の当初の明細書について技術思想(X)の記載があるとする資料とすることはできない。
原告は、原出願の当初の明細書に「刈取移送装置と脱穀機の取付位置を、相対的に且つ直線的に調節節する」という技術思想(Y)が記載されている以上、その上位概念である技術思想(X)についても当然に記載があると解すべきである旨主張するが、採用することはできない。前述のとおり、原出願の当初の明細書には、脱穀機と刈取移送装置とのいずれかを相対的に直線的に前後方向に移動調節可能にした構成のみが記載されているのであつて、技術思想(Y)の上位概念である技術思想(X)についても当然に記載があると解すべき根拠はない。
3 以上のとおりであつて、本願発明の特許出願は、原出願の明細書の要旨を変更するものであるから、特許法第44条第2項の規定による出願日の遡及は認められないとした審決に誤りはない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(荒木秀一 藤井俊彦 杉山伸顕)
<以下省略>